カメラマンとして取材に同行してくれた先輩と、取材終了後、喫茶店に入った。そこでオレは先輩に会社を辞めることを伝えた。
オレはこの話を自分から進んでする気にはなれない。
なのに、先輩に話したのは、先輩がオレの今後のことを、どの担当の仕事をしていけばいいか話してくれたから。これは話さないと相手に失礼だと思ったからだ。
先輩はどんな反応をするのか。
オレはあまり良い反応を期待していなかった。だから自分から積極的に話す気にはなれなかった。いつ伝えるべきか、悩んでいたくらいだ。
会社を辞めて小説家を目指す。
現実逃避。
逃げて夢物語の世界にこもる。
会社を辞めて作家を目指す? 何かっこつけてるんだ?
会社を辞める話をしたら、オレは編集部の人たちからバカにされるんじゃないかって、ずっと思ってた。
でも、先輩の反応は違った。
辞めた後、アルバイトを何を選べば良いのか、アドバイスを送ってくれた。
アルバイトをするにしたって書く仕事の方が良いよなって。
とても建設的な視点。その視点をオレのために向けてくれる。
このオレが会社を辞めるんだぞ。
仕事ができない。
時間に間に合わない。
場の空気を読めない。
散々ダメな部分ばかり見せていたオレが、文章で赤ばかり入れられているオレが会社を辞めて、作家を目指すというんだぞ。
馬鹿じゃないの?って思うのが普通だろ?
でも、先輩はそんな素振りを微塵も見せない。
「悲しくも嬉しくもある」と先輩。
「悲しいのは一緒に仕事ができなくなること。嬉しいのは自分のやりたい道を選んだことだ」と言うのだ。
仕事ができない。
時間に間に合わない。
場の空気を読めない。
それが職場でのオレだった。
そんなオレを散々フォローしてくれた先輩。
それが先輩の役割だと思ってしてくれた?
いや、違う。先輩はこの職場を去るとオレが告げてもなお親身に考えてくれている。
「自分から企画をどんどん出していけば良いよ。コウキの個性を発揮できる仕事は、今のうちの雑誌にはない。だから、自分の個性を活かせる別冊の企画をどんどん出していくと良いよ」
よく先輩はオレにそう言っていた。オタクであることも武器。仕事に活かせると考えてくれる。だが、オレはそうですねと言いつつ、そんな気はさらさらなかった。
もう編集部をいつ去るか、そのことばかり考えていたころだったこともあって・・・・・
今回、会社を辞めると告げても先輩はオレにまた言ってくれた。
「うちの仕事じゃ、コウキの個性は全然活かされない。民間だったら活かせるのにな」
先輩はオレという存在を認めてくれるのか。
このオレを、このオレを、このオレを。
仕事ができないこのオレを。
人として未熟すぎるこのオレを。
オレは、オレは・・
善意、悪意という色眼鏡で物事を判断してきた。
先輩にもそうだ。
礼儀知らずなオレと礼儀にとても厳しい先輩。
いつも先輩から見られている感じがしてオレは先輩にたいしていつも身構えていた。心を開こうとしなかった。心を開いた素振りだけをみせていた。
それがオレなのだ。オレのことを考えてくれている先輩にたいしても心無い態度をしてしまう。
それがオレの逃れられない運命なのだ。
オレは自分をリセットするために会社を辞める。
逃れられない運命を断ち切るために会社を辞める。
オレは自分を変えていく。