2008年 01月 09日 ( 2 )

うた

オレは自分のことで手一杯だった。
りEのボイトレの指導役を担うことになり、その役目を果たすため。

りEが自分自身で選んだ曲を歌っていても、どこをどう言えばいいのか。
探そうと探そうとばかり意識がいき、何を助言すればいいのかわからない。
だって、りEはけっこう上手くなっている。プロに比べたら劣るけど、プロなのだから比べたら劣っても当然だ。
そんな中でオレが口出せることはあるのか?

りEが自分で選んだ曲は、hideの「hurry go round」。
オレは違和感を覚えていた。
だけど、何も言わなかった。
その違和感の正体がはっきりとわからないでいたから。
人様を指導するんだ、慎重にいこうじゃないかって。

だけど、先生はすぐさま違うと言ってきた。

「ノリの良い曲を選んでいるが、御前はそんな人間じゃないだろう」
そう言う先生が選んだのは、レミオロメの「粉雪」だった。
とても繊細なラブソングだ。

りEが力強く歌い上げる。
オレはさらに違和感を覚えた。
それでも、その違和感にまだオレは自信がもてずにいた。

「違う!」
再びを顔を出した先生から注意が入った。

「力強く歌う曲じゃないだろう!強がろうとして見栄を張って自分の気持ちを隠そうとするな。歌詞のままに歌え、素直に感情を出せ」

りEが歌い直す。
りEの声から余計な力が抜けていた。
とても小さな声だった。
りEの表情が崩れていく。
声に嗚咽が混じり始める。
頬をつたう涙。
乱れまくり・・・・・

でも、聞いていてとても心地よかった。
聞かずにはいられなかった。

こちらの心が揺さぶられる。
そういう声だった。
こちらも・・・泣きたくなってくる。

そう、りEの歌から哀しさが伝わってくる。
でも、悪い哀しさじゃない。
心地よい哀しさ。
すがすがしい哀しさ。

哀しさが正直に出ているから。
哀しさを隠そうとしていないから。
哀しさを受け入れようとしているから。

感情が素直に出ているから、素直に心に染み入ってくる。

歌は技術じゃない。心で歌うもの。感情を伝えるもの。
人々を魅了する歌とはそういうもの。

なのに、感情を蓋していて、隠そうとしている。隠そうとして普段から不細工なことばかりしている。

ここはそういった人たちが集まっている場・・・・・・・。


その日のボイトレで自分の感情を素直に出せたりEのことがうらやましかった。
でも、このうらやましい気持ちは悪くない。

そう思えてくる、感情が素直に伝わる歌声だった。


オレは感情を隠して生きている。
この乾いた心を解放するのは、まだ時間がかかりそうだ。

オレは今も淡々とこの文章を書いている。
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by postmanda | 2008-01-09 03:34

甘い誘惑

今後のことについて、今日は部長と話すことになった。部長は、編集部の中でトップに立つ男。
1対1の席。面と向かい合う2人。部長はオレにこう言うのだった。

「小説家になりたいという夢は応援したい。しかし収入を捨ててまで目指すにはまだ時期が早過ぎないか。うちは他にもクリエイティブな部署がある。そこでなら創作力の上積みができるし残業も多くはない。早く帰って小説を書くこともできる。そうして小説の賞を取った人はうちの全グループを含めば何人もいる」

その提案はとても現実的だ。リスクを最小限にして小説を書ける環境が作れる。

オレの心は揺らいだ。それが実現するのならとても美味しい環境を手にできる。これが賢い生き方なんだろう。
席に戻ってからも葛藤が続いた。

でも・・・・・

部長の提案は断ろうと思った。
先週末、オレはある話を聞いてしまった。
オレは逃れられない運命を変えなければならない。
物事から逃げてばかりで、近寄ってきた人の悪意をすぐに感じとろうとしてしまう、親から植え付けられたこの哀しき習性を克服するために。
そのためには自分自身を変えなければならない。
賢い生き方をしてもオレは成功を手にできない。そのレールから、オレの人生は外れている。
逃れられない運命を変えるには、傍目から見て馬鹿な行き先のレールを選ぶしかないのだと思う。

オレは逃れらない運命を変えなければならない。
物事から逃げてばかりで、近寄ってきた人の悪意をすぐに感じとろうとしてしまう、親から植え付けられたこの哀しき習性を克服するために。
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by postmanda | 2008-01-09 02:31