2007年 08月 09日 ( 1 )

自閉症の生徒(8月7日火)

ヒデミさんのピアノ教室の生徒に自閉症の子がいる。
その子はレッスン中によく暴れるらしい。

今日はその子のレッスンの日だった。
彼と顔を合わせた僕はこんにちわと挨拶をした。
彼から返事はなかった。
ヒデミさんがその子に靴を並べるようにと言った。
でも、彼はその言葉を無視して靴を投げつけた。
ヒデミさんは何度も靴を並べるようにと繰り返し言った。
そのたびにその子は靴を投げつけた。

そこへ先生が顔を出した。
先生は「ボイトレを受けに来たんだろ。早く靴を並べて始めようぜ」と優しく言った。
だが、その子は靴を投げつけた。

先生は怒鳴り、靴を並べろと言う。
それでも彼は靴を投げつけた。
先生の手からびんたが飛んだ。
それでも彼は靴を投げつける。
そのたびにびんたが飛んだ。

靴を並べろ。
靴を投げつける。

靴を並べろ。
靴を投げつける。

靴を並べろ。
靴を投げつける

何度も何度もびんたが飛んだ。
やがて、彼は反応をしなくなった。
自分の世界に閉じこもってしまったのだ。
先生は靴を並べろと言い続ける。
彼は泣き出してしまった。
だからといって靴を並べろと先生は言うのをやめない。
でも、その子は靴を並べることだけは絶対にしなかった。

靴を並べる。

たったそれだけのことで、30分以上がすぎた。
なのに、靴はまだ並べられていない。

その子はボイトレを受けにきたのだ。
だったら、靴を並べることにこだわらなくてもいいじゃないか。
代わりに並べてやって、すぐにボイトレを受けさせてやればいいじゃないか。
そんな選択肢もあるはずだ。

でも、先生は靴を並べるようを言い続けた。
その子は疲れた様子を見せはじめ、先生は頭に汗を浮かべている。

先生はヒデミさんにタオルを持ってくるように言った。
そして、その子の涙と汗で汚れた顔を拭かせた。

「まだ靴を投げつけるようだったらまた俺を呼んでくれ」
と言って先生は自分の部屋に戻る。

それで僕もその場を離れた。
玄関からは以前として、「靴を並べるように」というヒデミさんの声が聞こえてくる。
何度も聞こえてきた。
でも、靴が投げつけられる音はしなくなった。
やがて、「よくできたね」というヒデミさんの声が聞こえてきた。
先生もやってきて、その子の頭をなでて「よくやったぞ。えらいぞ」と褒めた。

それから、ボイトレになったものの、ヒデミさんの指示に抵抗を見せ、曲に合わせてわずかに声を出しただけで、その子のボイトレは終わった。

帰り際。先生は「また来週、レッスンに来ような」と呼びかける。
彼は「うん」と頷いた。

彼はこの日教室に来たはじめと変わっていた。
出来ないことが出来るようになった。
それだけで彼は変わった。
大きな成長だった。
出来ないことを出来ないままにしていては駄目なんだ。
何も前に進まない。
出来ないことを放置したままにしない。
それが、その子に周りの大人が接するときのあるべき態度だと思うし、
オレらは、自分の出来ないことを放置したままにせず、自分で解決すべきなんだとも思った。
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by postmanda | 2007-08-09 01:25